鋳造ゴム印というハンコを知っていますか? 「鉛で作成された小さなハンコのような“活字”を組み合わせ」「石膏で型をとり」「ゴムで文字を写しとる」そうしてできあがる手造りのゴム印のことです。
その製作過程は、さきほどのように、言葉にすると簡単そうなんですが、手間もかかって、時間もかかる、だけどできあがったゴム印には、ちょっとあたたかみがある。そんな、昔ながらの造り方なんです。
この鋳造ゴム印、より簡単に、より大量に、より均一的な商品を供給することを目指した結果、
日本から姿を消そうとしています。
十字町商店会の中には、そんな鋳造ゴム印を、今も手造りで提供しているハンコ屋さんがあります。
鋳造ゴム印のこと、そしてハンコのことを聞きながら、完成までの工程を追っていきます。
神奈川県小田原市の海寄りにある十字町商店会、そこから、熱海、湯河原などに抜ける分岐点。その入り口に五十嵐印章店さんはあります。
創業から約50年。鋳造ゴム印以外にも、手彫りの印鑑や、活版印刷など、昔ながらの制作スタイルを持つハンコ屋さんです。
店主の五十嵐 勉さんに、鋳造ゴム印の制作過程を拝見させてもらえることになりました。
作るゴム印は、僕のゴム印です。領収書に押すゴム印欲しかったんです。
さっそく、聞いてみましょう。
━━鋳造ゴム印はどのような手順で作るんですか?
五十嵐さん まずは、お客さんから表記したい文字を聞き取るところから始めるよ。その後、サイズを決めて活字を拾っていく。
ゴム印のサイズによって活字の大きさが違うから、たくさんの種類の中から選ぶ。拾った活字を枠にはめて、石膏で型をとって、ゴムで文字を写しとる。それだけです。
活字を入れる文選箱(ぶんせんばこ)。名前が知的で好きになりました。
「それだけです」とはお聞きしましたが、活字1つ拾うといっても、五十嵐さんの保有する活字の量は…
こんな感じ。画像右側手前にはまだ棚が続きます。
自分の名前の活字を探してみたんですが、小さいは、たくさんあるはで、とても見つかりません。
指と比較すると大きさが分かる。文字の形を判別するだけでも消耗する。
「これだけの量から探すのは大変ですね」と話すと…
五十嵐さん 慣れ。
根っからの職人さんです。
こちらが型にはめた活字。一度に数人分を作るというのが常だそう。そのため、僕以外の人のご住所なんかはヒミツです。モザイクオン!
この作業は五十嵐さんが事前に進めていてくれました。時間もかかるし集中力が必要となるそう。枠の隙間を埋めるスペーサーにもたくさん種類があり、上手に組み合わせないと効率よくゴム印を作成できません。
サラッと解説していただくんですが、この作業も1つ間違えれば何度もやり直しをするはめに…。数学的脳が疲労しそうです。
まずはハンマーで活字をはめ込んだ枠を叩いていきます。
一見隙間がないように見えますが、手作業であるため、少しのズレやわずかな隙間が発生するそうです。
軽く叩いていくことでこのわずかなズレをなくしていくんですが…。
ズレているかどうかを判断するための機械なんてありません。目視と手に伝わる感覚だけで調整します。
そして、それでも機械造りのものと比べれば、目で見て分からない程度の違いが発生するそうです。
それこそが味であると五十嵐さんは話します。
五十嵐さん たとえば、まっすぐな文字をただまっすぐに記すというのは、パソコンでもできる。人間が手で作ると、見た目には分からない程度、ほんの少しだけの曲がりがあったりする。
パッと見ただけではなんともなくても、プロが見ると分かる。それが、鋳造ゴム印の味。機械で印刷するんじゃなくて、気持ちをこめて作るから。誰かの仕事の役に立ちますように、って。
続いて、ゴムをかぶせた石膏用の枠をさきほどの活字にあてがいます。
活字は繰り返し使用するので、石膏などが直接つかないようにするため。
これで下準備は完了。ここまでにも職人的な技術がたくさん必要であることが見てとれます。特に、活字を拾っていくのは、長年の経験から大体どこにどんな文字があるか体に染みこんでいるからこそできること。
僕なら、拾うだけで1日が終わりそうです。
石膏で型をとっていく
続いて石膏なんですが、石膏の粉末を容器に入れ…
固めるための薬剤を入れ、水を加えたら…
練ります。練ります。練ります。数十分間、手で練り続けないといけないそう。
この間に鋳造ゴム印について、またハンコというものについてお聞きしてみましょう。
と思いますが、第1回はここまで。2回目、3回目、最終回は、下記リンクから。