少しずつなくなっていく技術 鋳造ゴム印で領収書にハンコを押したい【第3回】

専用万力にセット

鋳造ゴム印というハンコを知っていますか? 「鉛で作成された小さなハンコのような“活字”を組み合わせ」「石膏で型をとり」「ゴムで文字を写しとる」そうしてできあがる手造りのゴム印のことです。

その製作過程は、さきほどのように、言葉にすると簡単そうなんですが、手間もかかって、時間もかかる、だけどできあがったゴム印には、ちょっとあたたかみがある。そんな、昔ながらの造り方なんです。

この鋳造ゴム印、より簡単に、より大量に、より均一的な商品を供給することを目指した結果、

日本から姿を消そうとしています。

十字町商店会の中には、そんな鋳造ゴム印を、今も手造りで提供しているハンコ屋さんがあります。

鋳造ゴム印のこと、そしてハンコのことを聞きながら、完成までの工程を追っていきます。

 

連載第1回

活字を拾う

少しずつなくなっていく技術 鋳造ゴム印で領収書にハンコを押したい【第1回】

2018年7月3日

連載第2回

石膏をのせる

少しずつなくなっていく技術 鋳造ゴム印で領収書にハンコを押したい【第2回】

2018年7月4日

連載第3回

専用万力にセット

少しずつなくなっていく技術 鋳造ゴム印で領収書にハンコを押したい【第3回】

2018年7月5日

最終回

仕上がり確認

少しずつなくなっていく技術 鋳造ゴム印で領収書にハンコを押したい【第4回】

2018年7月6日

前回までで型どりが終了。今回から焼きの作業に入っていきます。

文字の型を確認

まずは石膏の型の細かい破片を取り除きます。

かんなをかける

そして、表面をカンナでかけていきます。見た目には分からないほどですが、五十嵐さんの目から見れば、ゴム印にしたときの文字の底部分に少し出っ張りなどがあるそう。

この差異が、ゴム印を押したときの感覚やインクの写り具合に影響するとか。

「そんなに精密でなくて大丈夫。大体なめらかにしないと、ゴムに文字を写したときにスが入るから。」とのこと。

しかし作業を拝見している限り、“大体”という言葉の意味合いは、職人さんと僕たちでは違うものであることが分かりました。

凹凸を確認

目視で確認しながら…

かんなでなめらかにする

カンナでならす、という作業を続けます。

ブラシをかける

最後にブラシがけをして…

型の作成終了

型の作成終了です。あと少し乾燥させて、焼きを入れます。

石膏を焼いて固めていく

専用万力に火をいれる

プレスしながら焼きを入れることのできる、専用機材に火を入れます。

着火

160度になるまであたためます。これが、熱い!

圧力をかけながら熱を通すために、カバーなどはありません。

そのため、熱は部屋全体に充満します。また、160度をキープするため、冷房などをかけて部屋の温度を下げることはできないんです。夏場は大汗をかきながら作業することに。

━━これらの専用機材は、メンテなども必要なんですよね?

五十嵐さん 必要なんだけど、もう作っている会社も在庫なかったりするから。これが壊れたら仕事はおしまいになってしまうかな。後は、自分で必要な機材を作ったりね。

何度か、こうなったら辞めようと思ったことがあったけど、機材以外にも、東日本大震災のときにもそう思ったね。

活字

五十嵐さん 活字の棚は、取り出しやすいようにできているから、地震なんかがあると飛び出してしまうものもあるんだよね。

活字用辞書

五十嵐さん で、活字はハンコ屋さんの持つ辞書の順番に収納されているから、どこに何があるか大体分かるんだけど、震災のときは揺れが大きくて。

━━もしかして、全部いれなおしたんですか?

活字を眺める五十嵐さん

活字棚を眺める五十嵐さん。こういった活字自体、所有している人の数が減っているそう。

五十嵐さん 幸い、ウチは何も落ちなかった。でも、あそこで活字が地面に散っていたら、仕事を辞めていたと思う。

実際、震災より少し前の年にも大きな地震があって。他のハンコ屋さんで、活字がバラバラに落ちてしまった。その人は、それを機に廃業してしまったんだよ。

━━そうなんですか。確かに落ちた活字がなんの文字なのかを確認するだけでも大変ですね。ちょっともったいないような気もしますが。

五十嵐さん 棚に戻すだけで数ヶ月かかるだろうし、その間ゴム印を作れないからね。僕も跡継ぎもいないし、あと数年でハンコ造りを辞めてしまうと思う。そんなとき、この活字をどうするか、悩みどころだなあ。

小さい活字

活字には、文字以外に記号などもあり、思っている以上にたくさんのデザインのゴム印を造れるそう。

小さい活字の比較

爪先よりも小さいものもあり、本当に種類が豊富。集めるだけでも大変なものだ。

これらがなくなってしまうというのは、非常に惜しい気もします。

乾燥機器

型がある程度乾燥したら、焼きを入れて乾燥させる機器に入れます。

こちらで焼いている間にも、プレスの方は160度へ熱されています。

機器に近づくだけでも大分暑い。

うちわ

うちわを貸していただきました。コレが唯一の涼しくできる手段。五十嵐さんは慣れていらっしゃるので黙々と作業を続けていますが、僕は撮影しているだけで汗が噴き出してきます。

Tシャツがしぼれるほどになりました。

乾燥させた型を取り出す

焼きが完了したので石膏を取り出します。

専用万力にセット

160度にあたたまったプレスに移し…

うちわであおぐ

うちわであおいで石膏を少し冷まします。

ゴムを用意

文字を写すゴムを用意して…

ゴムをセット

石膏にあてがう。ずれないように神経を使う作業ですが、サッとこなす五十嵐さん。

鉄板をあてがう

布、鉄板をかぶせて…

焼きながら圧力をかける

圧力をかけながら、焼きを入れ文字を写していきます。

途中空気を抜くために圧力を少し緩めたり、再び強く締めたりと細かな部分に気をつかいます。

また、温度が高すぎるとゴムがべたべたに溶けてしまったり、温度が低すぎると文字が写らなかったりしてしまうそうです。

さあ、だんだんと作業は大詰めに。

次回、ついに完成です。

4回目に続く

ABOUTこの記事をかいた人

のじ さとし

編集者、ライターの のじさとしです。ラーメンを食べると胃にくる30代。新聞社→出版系の編集プロダクション→自転車屋さんとライター編集業の兼業、と順調に一般社会人のレールを外れています。商店会では撮影、ライティングなどを担当しています。