意外と身近なシダと日本の環境のことをお魚屋さんに聞く

お魚屋さん、と聞けば、お刺身や干物などを買うところ。お店で聞くことといえば「今日のオススメはなんですか」なんて一言。

だけど、十字町商店会にあるお魚屋さん「魚梅(うおうめ)」さんは違います。魚梅さんに行ったときはもう1つ。「オススメのシダはなんですか」と聞くことができるんです。

なぜなら、魚梅のマスターは、シダの好事家だからなんです。

意外と身近な植物“シダ”

魚梅店舗

魚梅さんは、神奈川県小田原市の十字町商店会にあるお魚屋さん。地場のお魚を中心に取り扱っているお店で、僕も何度も通っています。

そこで、十字町商店会のHPリニューアル時にお店の歴史などを取材しに行ったとき、シダの研究のために石垣島などにフィールドワークに行かれているとお聞きしました。

急遽、ボイスレコーダーをまわします。

クジャクシダ

イヌワラビ。魚梅さんの軒先で鉢に生えていました。

━━ちょっともう一回お聞きすることになってしまうんですが、シダの研究をされているんですか?

魚梅さん いやあ! 研究なんて難しいものじゃないよ。いまぐらいの季節は(お話をうかがったのは6月初旬)色もキレイだし、小田原にシダ研究している人達がいるから、その中にもぐりこんじゃってるんだよ。

たとえば、城山中学の校長先生をつとめられた飯田先生とか、城南中学の同じく校長をつとめられた松岡先生とか、このお2人の研究について行ってるというのが正しいね。

━━城山中学は僕の母校です(笑)。研究についていくというのは、もはや研究員ですよ。昔からシダをお好きだったんですか。

魚梅さん

魚梅さん 中学のときにね、1人1研究という課題があったのよ。そこで人にシダを勧められて始めたんだよね。

━━そうすると研究を始めて数十年は経っていますね。

魚梅さん 一時離れているときもあったよ。でも、20年くらい前に両先生にお会いして。それからまた始めたんだよね。

━━いずれにしろ長く研究されていると思います! 石垣島などには、採集を目的に行かれるんですか。

魚梅さん 採集はダメだよ。植物は勝手に採っちゃダメ。どんなところでもね。

見たいんだよ。石垣島や西表島、屋久島なんかには、図鑑にしか載っていないようなシダがたくさん存在している。見るだけで満足だよ!

━━熱意が伝わってきます。研究員として同行されると…

魚梅さん いや、ついて行っているだけだから、別に研究員という感じではないよ。

━━え、まさか渡航費とかも実費ですか?

魚梅さん そうだよ。

━━なかなかの金額になってしまいますよね! ちなみに、お魚とシダの関係って…。

魚梅さん よく人から聞かれるよ。上野の博物館に日本で一番のシダ研究家の先生がいらっしゃって。もう退職しちゃったんだけど、この先生にも「魚とシダって関係ないじゃないって」(笑)。ない。たしかに関係ない。でも好きなもんは好きなんだから、しょうがないよねえ(笑)。

━━一過性のはやりに流される人ばかりの現代で、そんな風に熱中できるものをお持ちなんて素敵なことだと思います。

シダという植物について

━━シダって、この辺りだと石垣の隙間などに生えているイメージで、よく見かけます。結構強い植物なんですか。

魚梅さん そうだねえ、環境が合えば比較的育ちやすいかな。だけど南の方に生える種類のシダを関東に持ってくれば、冬は枯れてしまうからビニールをかけて保護したり。たとえば鉢で売っているものを買うといっても、ちゃんと選ばないと後が大変だよねえ。

あとは冬眠するように、冬に枯れて、春に新芽が出てくるものや、1年中生えているものもあって、シダは種類が豊富なので、一口に「生えている」といっても、いろいろな生態があるよ。

そういう意味で、シダ全般が強い植物とは言えないかなあ。

あ、これ新芽だ。

シダの新芽

━━ああー! これですか。かわいいですね。爪楊枝ほどの大きさです。

魚梅さん こういうの好きだねえ。可愛らしくて。シダは、環境によって種の分布が変わるから、その土地に合ったものしか見つけることができない。そこがおもしろいのかもしれないなあ。

もっと見たかったら、ほら、こっちにいっぱい生えているよ。

といって案内されたのは、魚梅さんの店舗と隣家の間の隙間。

隙間に生えるシダ

近づいてみるとたくさんのシダが! すべてがシダという訳ではなく、雑草などもあります。しかしこんな場所に…。

━━意外とこういうスペースは、各ご家庭にあると思います。こういう場所がシダの生育に適しているんですね。もしかして、魚梅さんが植えて…。

ヤブソテツヤブソテツ

魚梅さん 違う違う(笑)! シダはね、半日陰になっている場所を好むんだよ。こういう路地みたいな場所のほかに、山の木陰になっている箇所とか、そういうところに生息している。

ハイキングなんかをしながら探してみるというのも楽しくてね。僕は好きだなあ。中学のときは道了尊から金時山行ったりね。

━━道了尊から金時山というと…。げ、4時間以上かかるじゃないですか! シダを探しながらだともっと時間が…。

カニクサ珍しいつるから生えるシダ カニクサ

魚梅さん 楽しいよー。山だとたくさんの種類があるし。探すのはそんなに大変じゃない。

山中で言えば、「日がかげると日陰になりやすい斜面」「林ならばあまり木々の密集していない林の始まり部分」とか、日当たりが重要になる。木の下なんかもいい場所だよ。

━━意外にデリケートな植物なんですね。そうなってくると、昨今の異常気象なんかの影響で種がなくなってしまうなんてものも…。

魚梅さん ありますよ。あとは、30年くらい前までは静岡の西伊豆にしかなかったものが、今は神奈川県内の大雄山の奥地の方でも見られるようになってきた。

カタヒバ

━━結構距離がありますが。生態分布が変わってきているんですね。

魚梅さん そう、シダは胞子で増えていくから、少し距離があっても飛んで行っちゃうんだ。ただし、これは気候の変動ありきだね。

あたたかいところで育つシダが少しずつ北に広がっている。分かると思うけど、温暖化が原因だよ。

シダから見る日本の環境変化

魚梅さん シダはさっき話したように、環境が違えば枯れてしまう。同じ種類で全国どこでもあるという種ばかりじゃない。それが、南の方にあった品種が少しずつ北の方でも見かけるようになっていきている。

━━別件の取材で、JCCCA(全国地球温暖化防止活動推進センター)の発表では、20世紀は19センチメートルの海面上昇を記録するほど気候があたたかくなったと聞いたことがあります。やはり、温暖化はシダの生育環境にも大きな影響があるんですね。

店頭のお魚

魚梅さん 僕がシダのことを知る前はどうだったか、そこは詳しくはないんだけど、だんだんと北へと広がっているといのは、変えようのない事実だからね。異常、と言えば異常なのかもしれない。

あとは、お魚も同じような状況でね。サワラなんて魚は、以前は青森では獲れなかった。今は獲れるんだよね。小田原でもなかなか上がらないお魚が捕れたり、心配、という言葉は軽いかもしれないけど、やっぱり心配だよ。不安になるよね。

━━シダやお魚を通して、自然界への影響を毎日のように見られている魚梅さんだからこそ、より身近に感じる問題なのかもしれません。

魚梅さんインタビュー

魚梅さん ほかにも、シダは特に山の開発の影響も受けていて。10年前に、いっぱいあったシダの種類が、一気になくなってしまうこともある。

神奈川県内には、ヤシャイノデというシダがあるんだけど、これが神奈川を含めて全国3県にしか生息していない貴重なものなんだよ。

━━かっこいい名前ですね。

魚梅さん そうなんだよね。ただ、これは山を切り崩した開発にともなって、沢が荒れてしまったり、環境が変わってしまったことで鹿がほかに食べるものがなくなって食べてしまったりしたことが原因で、ほとんど見かけなくなってしまって。あとね、人間がみーんな持って行っちゃったの。

━━人間というと、密漁のような?

魚梅さん うーん、実際どんな人なのかは不明なんだけど。珍しいものだから、高く売れるんだよね。それで次々と持って行っちゃうんだよ。そんなことがあって、長野県まで行かないと見られなくなっちゃった。

あとは、山梨県の道志村というところにヤシャイノデが出てきたなんて話も聞くけど。

それは、ヤシャイノデの場合だけで、人間の手でなくなってしまった種をほかでも見かけることができる訳ではないから。

━━お聞きしていると、意外と身近な「シダ」を取り巻く環境に対して、知識が乏しかったなと感じます。

魚梅さん シダ好きの人がたくさんいる訳ではないからね(笑)。なくなっていってしまうものもあるけど、シダはいろんなところにいろんな種類があるから。

まずは興味を持って見てみるというのもきっとおもしろいよ。自宅の影になっている部分なんかには種類も豊富に生えていたりね。あ、こんなところにシダがある、なんて。

いろいろあるけれど、シダという植物を楽しんでくれる人が増えるといいなと思っています。

━━僕も帰宅したらさっそく見てみます!ありがとうございました。

シダは意外と身近にある

その後帰宅して確認してみると、自宅の脇にもシダがチラホラ。

庭のシダ庭の机の下にも生えていました。こんなところにあるのきづかなかった…。

名前も知らない状態では雑草のように感じていたんですが、今はなんだか感慨深く見つめてしまいます。

生態分布が広がっているということについて、いろいろ考えることもあるんですが、

まずは、この自宅脇に生きるシダが、元気に育っていくところを見たいと感じています。

きっとあなたの近くにもあるシダ。なくなってしまわないように、何ができるのかを考えてみる、そんなきっかけになるかもしれません。

次、魚梅さんにお魚を買いに行ったときは、オススメのお魚を聞くのと一緒に、オススメのシダについて聞いてみるのもいいかもしれませんよ。

それでは!

教えてくれたのは

魚梅
魚介類販売業
住所 小田原市南町3-1-53
電話 0465-22-2974
営業時間 10:00〜18:00
定休日 日曜・祭日

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ABOUTこの記事をかいた人

編集者、ライターの のじさとしです。ラーメンを食べると胃にくる30代。新聞社→出版系の編集プロダクション→自転車屋さんとライター編集業の兼業、と順調に一般社会人のレールを外れています。商店会では撮影、ライティングなどを担当しています。