前回まで証明写真について、創業から200年近い写真館、五十嵐写真館さんにお聞きしました。
今度は、実際に撮ってもらいましょう。
証明写真を撮影するのは免許の更新以外では10年ぶりくらい。
ちょっと緊張します。
※前回の記事はこちら

まずは1階の待合室で五十嵐さんの準備を待ちます。

セットが終了したとのことなので、2階に上がっていくと…

ホテルのようなスタジオ前のスペースが、すごいゴージャス。撮影スタジオにもよく行きますが、もっと業務的。やはり撮影スタジオと写真館というのは別物です。

オシャレな店内に、気持ち背筋もぴんとしました。
撮影開始

こちらがスタジオです。

照明機材などが多数あり、ちょっとした非日常感を味わえます。

いざ、撮影開始です。
ここからが本題ですが、撮影はものすごくスピーディーに進みます。撮影までのやりとりを、かいつまんで文字にします。
五十嵐さん では、まずそこまで深く腰掛けず、少し前の方に座ってください。
のじ はい。
五十嵐さん そして、あごを引いて…、ええ、もう少し、そのあたり。では、撮影します。目線は私の手で。
ここで数枚撮影。
五十嵐さん では、今度は灯りをつけます。
また数枚撮影。
五十嵐さん 気持ち首を右に、ああ、そう。では撮影します。
数枚撮影。
五十嵐さん はい、終了です。
撮られる側だったので画像が残っていないのが残念なほどの早業。熟練の職人さんのなせる技ですね。
そのため非常に楽というか、負担の全然ない撮影でした。
昔の写真館は、非常にお金のかかる商売だった

撮影終わりにスタジオ内を拝見していると、時代を感じるカメラが置いてありました。

五十嵐さん これは25年ほどまで使用していたカメラだね。いわゆる大判のカメラです。タチハラというメーカーのもの。
今はレンズがついていないんだけど、レンズ1本で家一軒が立つと言われていた時代のものです。カメラ本体も同じように家1軒立つ金額だというから、当時の写真館というのは非常にお金のかかるものだったんだよね。

五十嵐さん そして、この背景布。明治時代には国産高級車一台分、と言われていたよ。
現在はもう少し安くなっていて、この画像のものは60万円ほど。

五十嵐さん 今はカメラも安価になって、プロユースのものも手に入りやすくなったから、当時の撮影機材の金額というのは、なかなか想像できないよね。

こちらの背景布、近づいて見るとプリントなどではなく、油絵のようなもので描かれています。昔の画家の方は、なかなか自分の作品が売れないときに、副業としてこういった背景布などを書かれていたそう。
五十嵐さん 正確に言うと油絵の具ではないんだけど、ウチは近くに神社などもあるので、七五三などでこういったクラシックな背景布を使うこともある。最近は使用機会もなくなってきたけどね。
のじ 絵としてもすばらしいものですね。しかし、これだけ機材にお金がかかると、昔の写真館というのは、なかなか開業できるものではありませんね。
五十嵐さん そうだね。明治時代なんかに写真館を開くなんていうのは、相当な資産家でないとできなかった。現在は娯楽の一環で、趣味としてカメラを扱う人も多いけど、機材の方向性というか、そもそもの造りが違うからね。いい時代になったなあと思います。
とくに、写真館は証明写真などのように、実用的なものだけではなくて、ご家族の記念写真なども撮ります。だから、さまざまなシチュエーションに対応できるよう、準備をしていくことが大切なんです。
写真の仕上がりを比べてみる
さて、撮影も終わり、写真の仕上がりまで3日ほどとのこと。

そうしてできあがったのが、こちらの証明写真です。
今まで撮影した証明写真で一番いい!

そして、こちらがボックスの写真機で撮影したもの。服装、メガネなど同じものです。
撮影前の画面だとメガネの反射は気にならなかったんですが…。フラッシュの反射でついてしまったのかな…。
また、同じ表情をしたつもりなんですが、全然ちがう!
ほかにも、アゴは二重あごになるギリギリまで引いたんですが、写真だとあまり反映されませんでした。イスの高さでしょうか…。
襟元もこんなにずれているとは…。人に見てもらわずに撮影するのはむずかしいですね。
スキャン画像なので少し画質が粗いというのもあると思いますが…。どっちが、とは言いません。しかし、やっぱり大きな違いがあります。
初回インタビューで五十嵐さんのおっしゃっていたように、自分が面接官だったらどちらのほうが印象よく受け取るか、そんなことを考えながら見ていました。
売り手市場と言われる就職活動。それでも希望通りにいかない、という人は証明写真を写真館さんで撮影してもらってはどうでしょう。
やっぱり、人の手で造ったものは、込められた思いが違います。